近年、日本の都市部において、鳩の巣作りが引き起こす問題が深刻化しています。かつて平和の象徴とされた鳩は、今や多くの住民や建物管理者にとって頭の痛い存在、いわゆる「害鳥」として認識されるようになりました。この問題の背景には、都市環境そのものが鳩にとって非常に住みやすい楽園となっている現実があります。高層マンションやオフィスビル、商業施設といったコンクリートの建造物は、もともと鳩の祖先であるカワラバトが生息していた断崖絶壁に似た環境を提供します。特にベランダの室外機の裏や、配管が入り組んだ隙間、建物の軒下などは、雨風をしのぎ、カラスなどの天敵から身を守る絶好の営巣場所となるのです。ある分譲マンションでは、特定の階の複数の住戸でベランダへの鳩の侵入と巣作りが相次ぎ、管理組合が対応に追われるという事例が発生しました。住民からは糞による悪臭や衛生面への不安、鳴き声による騒音などの苦情が殺到。管理組合は当初、各戸に注意を促すビラを配布する程度でしたが、問題は一向に解決しませんでした。鳩は一度安全だと認識した場所への帰巣本能が非常に強く、一時的に追い払ってもすぐに戻ってきてしまうためです。事態を重く見た管理組合は、専門の鳥害対策業者に調査を依頼しました。その結果、問題のマンションが鳩の餌場となっている近くの公園から飛来しやすい位置にあり、建物の構造上、巣作りに適した死角が多いことが判明しました。対策として、管理組合は費用を捻出し、被害の大きい住戸を中心に防鳥ネットの設置を補助する制度を導入。さらに、建物全体で定期的な清掃と点検を行い、鳩が寄り付かない環境を維持するよう努めました。この事例が示すように、鳩の巣作り問題は個々の住民だけの努力で解決するのは難しく、マンション全体、あるいは地域全体で連携して取り組む必要がある社会的な課題と言えます。都市化が進む中で、私たち人間と野生動物との距離が近くなったからこそ生じるこの問題に対し、私たちは法を遵守しつつ、より効果的で持続可能な対策を模索していく必要があります。
都市部で増える鳩の巣作り問題