私が住んでいる築十五年の賃貸マンションで、ある夏、ついに黒い影、ゴキブリと遭遇してしまいました。一匹見たら三十匹はいる、という恐ろしい言葉が頭をよぎり、私は意を決してバルサンを焚くことにしました。しかし、ここは集合住宅。自分の部屋だけの問題では済まないかもしれないという不安がよぎりました。まず私が取りかかったのは、情報収集です。賃貸契約書を引っ張り出し、害虫駆除に関する条項がないか確認。特に記載はなかったものの、念のため管理会社に電話を入れ、「隣や上下階に迷惑がかからないか心配なのですが」と相談しました。担当者の方からは「火災報知器にカバーをすれば基本的に大丈夫ですが、可能であれば両隣と階下の方には一声かけておくと親切ですね」というアドバイスをもらいました。正直、隣人とほとんど交流がなかったため気が重かったのですが、後々のトラブルを避けるため、勇気を出して菓子折りを片手に挨拶に伺いました。「明日、部屋で害虫駆除の燻煙剤を焚くので、もしかしたら少し煙の匂いがするかもしれません」と伝えると、皆さん嫌な顔一つせず「うちも気をつけますね」「教えてくれてありがとう」と言ってくださり、胸をなでおろしました。当日、私は説明書を何度も読み返し、火災報知器に付属のカバーを厳重に取り付けました。煙が漏れないよう窓や換気口をきっちり閉め、ペットのインコを連れて家を出ました。数時間後、恐る恐る家に戻り、換気をしながら部屋を確認すると、床には数匹の亡骸が。効果はてきめんだったようです。その後、念入りに掃除機をかけ、床を拭き、全ての作業を終えました。この一連の経験を通じて私が学んだのは、集合住宅でバルサンを使う際は、効果そのものよりも、周囲への配聞りの方がずっと重要だということです。管理会社への一本の電話、隣人への一言。その小さな手間が、無用なトラブルを防ぎ、安心して害虫対策を行うための鍵となるのです。