それは、穏やかな春の日の午後でした。洗濯物を取り込もうとベランダに出た私の目に、エアコンの室外機の裏に散らばる数本の小枝が飛び込んできました。最初は気にも留めなかったのですが、翌日、その小枝が少し増えていることに気づき、嫌な予感が胸をよぎりました。そして三日目、そこには明らかに鳥の巣とわかるものが形作られ始めていたのです。犯人は、最近よくベランダの手すりに来ていた一羽の鳩でした。まさか自分の家が狙われるなんて。最初は、巣を払い落としてしまえば諦めるだろうと安易に考えていました。しかし、私が小枝を片付けても、鳩は翌日にはまた新しい材料を運び込み、まるで私の行動をあざ笑うかのように巣作りを再開するのです。その執念深さには、正直なところ恐怖すら感じました。インターネットで調べてみると、鳩の巣作りは法律で保護されており、卵や雛がいると手出しができないという事実を知り、私はさらに焦りました。まだ卵はない。今すぐに対策をしなければ。私は急いでホームセンターに走り、防鳥ネットと鳩が嫌うという固形の忌避剤を購入しました。不慣れな手つきで室外機全体を覆うようにネットを張り、忌避剤を数カ所に設置しました。これで大丈夫だろう、と胸をなでおろしたのも束の間、鳩はネットのわずかな隙間から侵入しようと試みたり、ネットの上にとまってこちらをじっと見つめたりと、一向に諦める気配を見せません。その姿を見ているうちに、だんだんと彼らの生きるための必死さが伝わってきて、複雑な気持ちになりました。しかし、糞害や衛生面を考えると、ここで同情するわけにはいきません。それから数日間、鳩と私との静かな攻防が続きました。私がベランダに出ると鳩は飛び立ち、私が家の中に入ると戻ってくる。根比べの日々でしたが、最終的に鳩は我が家のベランダを諦めたようでした。ある朝、いつもの場所に鳩の姿はなく、それ以来、彼らが戻ってくることはありませんでした。この一件で、私は野生動物との共存の難しさと、問題が大きくなる前の初期対応の重要性を痛感しました。今でもベランダのネットを見るたびに、あのしつこい鳩との静かな戦いを思い出すのです。