私が初めて一人暮らしを始めた年の夏、忘れられない恐怖の体験をしました。都会の古いアパートの一室、蒸し暑さで寝苦しい夜のことでした。喉の渇きを覚えてキッチンへ向かい、電気をつけた瞬間、私の時間は止まりました。シンクの縁を、信じられないほど大きな黒光りする物体が悠然と横切っていたのです。ゴキブリでした。それまで実家ではほとんど見かけたことがなかった私にとって、それは未知の生命体との遭遇に等しい衝撃でした。悲鳴を上げる間もなく、全身が凍りつきました。ゴキブリは私の視線に気づいたのか、カサカサという不気味な音を立てて、あっという間に冷蔵庫の裏へと姿を消しました。その夜、私は一睡もできませんでした。部屋のどこかにあの怪物が潜んでいる。そう思うだけで、ベッドに入っても体の力が抜けず、少しの物音にも心臓が跳ね上がりました。翌日、私はドラッグストアに駆け込み、ありとあらゆるゴキブリ対策グッズを買い込みました。殺虫スプレーを常に手の届くところに置き、部屋の隅々に毒餌を設置し、隙間という隙間をテープで塞ぎました。それでも恐怖は消えません。食事をする時も、シャワーを浴びる時も、常に壁や床に視線を配り、黒い影に怯える日々が続きました。あの遭遇から一週間後、ついに決戦の時が訪れました。夜中、トイレに立った私の目の前を、再び奴が横切ったのです。私は恐怖を振り払うように、手に持っていた殺虫スプレーを夢中で噴射しました。壮絶な戦いの末、ついに奴を仕留めることができましたが、その時の心臓の動悸と後処理の嫌悪感は、今でも鮮明に思い出せます。この一件で、私はゴキブリの活動が夏にピークを迎えることを身をもって学びました。そして、彼らが現れてから対処するのでは遅いのだと痛感したのです。以来、私は春先から予防策を徹底し、彼らが住み着けない環境を作ることに全力を注いでいます。あの夏の夜の恐怖は、私にとって最高のゴキブリ対策の教師となったのです。