それは、季節の変わり目で少し肌寒くなった日のことでした。去年の秋に着ていたお気に入りのウールのカーディガンを出そうと、私は寝室のタンスの引き出しを開けました。たたまれた衣類の一番下からカーディガンを取り出したその時、私の目に信じられないものが飛び込んできました。引き出しの隅、白い木肌の上に、茶色と白の縞模様をした、長さ五ミリほどの小さな毛虫がうごめいていたのです。それも、一匹や二匹ではありません。数匹が、まるでホコリの塊のように集まっていました。驚きのあまり、私は思わず引き出しを閉めてしまいました。心臓がバクバクと音を立て、頭の中が真っ白になりました。ゴキブリとは違う、未知の生物との遭遇に、言いようのない恐怖と嫌悪感がこみ上げてきました。少し落ち着いてから、スマートフォンで「タンス、毛虫、縞模様」と検索し、その正体がカツオブシムシの幼虫であることを知りました。衣類を食べる害虫だという記事を読み、私は慌ててカーディガンを広げて確認しました。すると、案の定、袖のあたりに数ミリの小さな穴が二つ、無残にも開いていました。ショックでした。お気に入りだっただけに、悔しさと虫への怒りが同時に湧き上がってきました。私はその日、半日かけてタンスの中身を全て出し、徹底的な駆除作業に取り掛かりました。まず、引き出しの中にいた幼虫をティッシュで捕まえては処分し、その後、掃除機で隅々まで念入りに吸い取りました。タンスの中の衣類は全て洗濯機に放り込み、高温で乾燥させました。ウールなどデリケートな素材のものは、スチームアイロンを丁寧にかけることで熱処理を施しました。最後に、空になった引き出しを固く絞った雑巾で拭き上げ、新しい防虫剤をたっぷりと設置して、ようやく作業を終えました。体力的にも精神的にも、本当に疲れ果てた一日でした。この一件以来、私は衣替えの際の防虫対策を一切怠らなくなりました。あの小さな毛深い訪問者は、私に日々の予防の重要性を教えてくれた、忘れられない教師となったのです。
ある日タンスの隅にいた毛深い虫