それは、初めて一人暮らしの部屋でバルサンを使おうと決めた、若かりし頃の苦い思い出です。当時、私は害虫駆除の知識に乏しく、バルサンの煙が火災報知器を作動させる可能性があることなど、全く頭にありませんでした。説明書もそこそこに、部屋の中央にバルサンを置き、水を入れて煙が出るのを確認すると、意気揚々と部屋を後にしました。数時間後、近所のカフェで時間を潰し、そろそろ良い頃だろうとアパートに戻ってきた私を待っていたのは、想像を絶する光景でした。アパートの前に数人の住人が集まり、何事かとざわついています。そして、その中心である私の部屋の玄関ドアの前には、険しい顔をした大家さんと管理会社の人が立っていました。けたたましく鳴り響く警報音は、言うまでもなく私の部屋の火災報知器から発せられていたのです。顔面蒼白になった私に、大家さんは「君の部屋から煙が出てるって通報があったんだよ!」と詰め寄ります。私は震える声で「すみません、バルサンを焚いていました」と白状しました。幸いにも本物の火事ではなかったため、消防車を呼ぶ事態には至りませんでしたが、私は他の住人の方々と大家さんに平謝りするしかありませんでした。警報器を止め、窓を開けて煙を追い出すまでの間、私は皆の冷ややかな視線を浴び続け、身の縮むような思いをしました。この失敗から私が得た教訓は、説明書を軽んじてはいけない、という至極当たり前のことです。バルサンのパッケージには、必ず火災報知器を覆うための専用カバーが付属しています。もしそれを紛失したとしても、ビニール袋とテープで代用できます。あの時、ほんの数十秒の手間を惜しまなければ、あんな大騒動を起こし、多大な迷惑をかけることはなかったのです。バルサンの強力な効果の裏には、相応の注意義務が伴います。この一件以来、私はどんな製品を使う時でも、必ず説明書を熟読し、想定されるリスクを全て確認するようになりました。あの鳴り響いた警報音は、今でも私にとって安全意識の重要性を教えてくれる警鐘となっています。