あれは、緑豊かな山間でのキャンプを楽しんでいた夏の日のことでした。夕暮れ時、川のせせらぎを聞きながら半袖半ズボンという開放的な格好でくつろいでいると、足首にチクッとした鋭い痛みを感じました。見ると、小さなハエのような虫が止まっており、慌てて手で払いのけました。その時は少し血がにじんだ程度で、大したことはないだろうと高をくくっていました。しかし、その夜からが悪夢の始まりでした。刺された箇所がズキズキと脈打つように痛み出し、みるみるうちに赤く腫れ上がってきたのです。蚊に刺された時のようなかゆみとは全く異なり、熱を持った激しい痛みが続きました。翌朝、足首を見ると、直径五センチほどにパンパンに腫れ上がり、その中央には不気味な水ぶくれができていました。歩くたびに激痛が走り、キャンプを楽しむどころではありません。私は急いでキャンプを切り上げ、帰路につきました。自宅に戻ってからも症状は悪化する一方で、水ぶくれはさらに大きくなり、周囲のかゆみも耐え難いものになっていました。もう自分ではどうにもならないと観念し、皮膚科に駆け込みました。医師は患部を見るなり「これは典型的なブヨですね」と診断。ブヨは皮膚を噛み切って吸血するため、強い炎症を起こしやすいとのことでした。処方された強めのステロイド軟膏と抗アレルギー薬の内服を開始し、医師の指示通り、水ぶくれは絶対に潰さずにガーゼで保護する日々が続きました。痛みとかゆみが完全に引くまでには一週間以上かかり、水ぶくれが自然に破れた後も、皮膚には紫色の色素沈着がくっきりと残ってしまいました。あのたった一匹の小さな虫がもたらした苦痛と、完治までの長い道のりを思うと、今でもぞっとします。この経験以来、私は自然の中へ出かける際は、虫除け対策と肌の露出を避ける服装を何よりも徹底するようになりました。