これまで数千件に及ぶ鳩害調査を行ってきた中で、私は「鳩が巣を作る家」にはある種のヒエラルキーが存在することに気づきました。鳩は決して無差別に家を選んでいるわけではなく、非常にシビアな選別基準を持って、最も「楽で安全な場所」を奪い合っています。鳩が巣を作る家の中で、最もランクが高いのは、長期間空き家になっている物件や、住人が高齢で管理が行き届いていない家です。こうした場所は鳩にとっての「聖域」であり、一度定着すると駆除には多大な労力を要します。一方で、新しいマンションや手入れの行き届いた一軒家が狙われる場合、その原因はピンポイントな構造的欠陥にあります。例えば、目隠しルーバーの隙間が鳩の体格にちょうど合っていたり、非常階段の裏側が地上から見えない死角になっていたりする場合です。専門家の視点から見ると、鳩が巣を作る家というのは、ある意味で「隠れ家としての性能が高い家」と言い換えることもできます。調査の際、私たちがまず確認するのは、建物の周辺にある「中継地点」の有無です。鳩はいきなりベランダに入るのではなく、近くの電線や街灯、あるいは向かいのビルの屋上などで様子を伺い、安全を確認してからターゲットの家へ飛び込みます。つまり、自分の家の手すりだけでなく、周辺の環境を観察することで、鳩が巣を作る家になる前兆を察知することが可能なのです。もし、家の前の電線にいつも同じ鳩が止まってこちらを見ているようなら、それは既に下見が始まっているサインです。また、鳩は一度繁殖に成功した家の場所を、GPSのような正確さで記憶しています。親鳥が駆除されても、そこで育った雛が成鳥となって戻ってくるという「負の連鎖」も頻繁に確認されます。これを断ち切るには、単に追い払うのではなく、その場所の環境的魅力をゼロにするしかありません。強力な忌避剤で「嫌な記憶」を植え付け、物理的な障壁で「不可能な場所」に変える。この二段構えの処置が、鳩が巣を作る家を救うためのプロの技術です。鳩という生物の驚異的な生命力と知能を尊重しつつ、それ以上に人間の領域を侵害させないという強い管理意識を持つこと。調査を通じて私が行き着いた結論は、鳩が巣を作る家を救うのは、最新の器具以上に、家を大切に想う住人の意識の変化であるということです。